社会福祉法人医療法人 内部統制

 

社会福祉法人・医療法人の内部統制

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今求められる法人のガバナンスと財務規律

今求められる法人のガバナンスと財務規律
 

 

  今、社会福祉法人の制度改革と医療法改正が推し進められている。大規模の法人には外部の会計監査が義務付けられることをはじめとして、各法人には今までにない負担が課せられることになる。

少子高齢化が叫ばれて久しいが,もはや漠然とした将来の不安ではなく、いわゆる2025年問題※といわれる超高齢化社会の到来が現実味を帯びてきた。

 

 (※)「2025年問題」・・・2025年には、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になるため、日本の総人口の18%超が75歳以上になるという、いびつな人口構成が予測される。

 

 このままいけば、医療年金介護等の社会保障費の重圧で、この国の財政破綻が必至となってきたことが、誰の目にも明らかになってきた。それゆえ、国の対策もここに来てピッチが上がってきた。社会保障費関連の削減はいうに及ばず、少子化対策や高齢者の健康維持に向けた社会生活上の取組も活発化している。こうした一連の流れの中で、今回の社会福祉法人の制度改革、医療法の改正があることを押さえておかなくてはならない。つまり、社会保障関連事業の、民間の、そして最大の担い手である、社会福祉法人、医療法人の運営、経営にメスを入れていく意図がある。もとより、社会保障である以上、まったくの自由競争のなすがままにすれば、本来社会的支援を受けるべき人たちへの保障が損なわれる事態に陥りかねないが、有限の資源である以上、運営の効率性が図られなくてはならない。厚生労働省としては、国民皆保険皆年金の枠の中に、契約制度への転換による市場原理を一定導入するとともに、運営主体の法人の経営の健全性を強く求めてきている。それが、法人のガバナンス(統治)と財務規律の向上である。

 

 

何故、今、内部統制が問われるのか

何故、今、内部統制が問われるのか
 

  内部統制ということばは、一般にはまだ定着しているとはいえないが、Internal Controlという英語の直訳である。どこの会社でも組織でも、仕事上のミスや事故をふせぐため、何がしかのルールを決めている。これが内部統制と考えればよい。そのルールは多岐にわたるだろうが、とくにお金に絡んで、ミスや不正が起きないようするための仕組みが、狭義の内部統制である。

一方、ガバナンスというのは、会社であれば、取締役会や監査役、さらには株主といった存在が、経営者の行動をしっかりと把握し、意見を言うべき時にははっきりものを言える体制と内実(組織風土)のことである。これがないと、経営者が会社を私物化したり、独走して不祥事を引き起こしたりするおそれがある。

もともとこの二つとも、企業経営の分野で発達してきた考えた方だが、非営利法人はなくてよいということにはならないのは自明である。もちろん、そんな仕組みは元々ありますよ、という、法人もあるだろうが、問題は、自分で大丈夫といっただけでは済まされない、ある程度、外部の目からみて仕組みが成立し、機能していることを確かめなければ大丈夫かどうかはわからない、ということだ。

 

 
内部統制はどの組織にも必ずあるが、問題はそのレベルである

 

 例を考えてみよう。

 ある法人の本部事務局の総務課担当者Aが、パソコンが必要なため、購入を上司Bに申し出たとしよう。上司Bが承認し、Aは出納係Cに電機店の見積もり書を見せて10万円を仮受け、電気店から110万円のパソコンをその現金で買い、総務課の自分の机に設置し、経理課の出納係Cに領収書を手渡した。出納係Cから、領収書を回された経理課の入力担当者Dは、帳簿に10万円の出金を記載することになる。

 こうした一連の流れでは。モノは、電気店→A→法人総務課へ、お金は法人金庫→A→電機店へ、と流れ、それに応じて情報も伝わっていくことになろう。

 どこの組織でも、こうした取引が円滑に、かつ適正に処理されるべくルールが設けられているはずである。また、仮に10万円といわれていたパソコンがセールで、95千円であった場合、出納係は、領収書現物を照合して5千円をAから返金してもらうはずである。しかし、どこの組織でも不正は起こりうる。Aがパソコンを自宅に持ち帰って私用したり、出納係が、当初の見積もり書をもとに、パソコンの購入対価を10万円と偽って、5千円を着服したりする可能性は排除できない。あるいは、Aは同じ型のパソコンが量販店では9万円で売られていたのを知っていながら、電気店での自分のポイントを貯めるため、あえて高い商品を買ったということもありうるかもしれない。さらに、経理の入力担当者が、見積もり書と領収書を一緒に渡されたため、誤ってパソコンの金額を10万円と帳簿に記載してしまうミスまで考えれば、いろいろな可能性がある。

 こうした間違いや不正がおこらないよう、さらには適正で効率的な業務処理がなされるため内部統制の働きが必要となる。

 

 
 適切で効率的なルールが作られているか

 

  内部統制を評価(組織外部から、その組織の内部統制がきちんと利いているかどうかをチェックすること)する上で、第一段階として、「内部統制の評価手続」がある。これは、業務処理のルールが合理的に設計されているかをみることである。前述の例でいえば、まず、Aがパソコン購入を上司Bに申し出るところから始まるが、物件購入申請に係るルール~××円以上の物品は、申請者が相見積をとって申請書を提出し、稟議に付されて責任者が承認する等~があるかどうか、そのルールがあればまずは大丈夫といえるか、を見ることになる。鉛筆1本買うにも、理事長の事前承認が必要とすると、組織は回らないので、効率性を考慮せざるを得ないが、一方で不正・ミスを防ぐために、必ず押さえなければならないツボもある。前述の例でいえば、経理の入力担当者は帳簿入力後、現金有高と突合する(その段階で、5千円のズレが発見できる)とか、経理の責任者は月次で入力後の帳簿に間違いがないかを確認して承認印を押すとか関門を設けておけば、不正、ミスが見逃されるリスクがずっと減る。

こうした、効率性と適切性を勘案して、内部統制のデザインが設計されているかが検討されることとなる。

 ここで、気をつけなければならないのは、作られたルールは文章化しておかなくてはならないことである。「こういうルールになっています」と言われただけでは、人によって解釈や言い方のニュアンスの差があり、時間が経ち、担当者が変わっていけばあいまいになったり、拡張されたりする。また、外部から内部統制の整備状況を評価する方も、何を元に評価してよいかわからないことになってしまう。それゆえ、ルールは、規程やマニュアルとして文章化し、ルールが変われば、必ず、規程、マニュアルも更新していかなくてはならない。

 

 

内部統制のルールが実際に機能しているかどうか

内部統制のルールが実際に機能しているかどうか
 

 

  内部統制の評価の第二段階は、「運用状況の評価」となる。ここで、運用状況というのは、ルールはあります、では、それが実際の業務運営の中で実行されていますか、ということだ。よく、膨大な規程集があるが、誰も読まないし、昔決めた規則どおりにやっていたら仕事にならない、という例がある。少なくとも、自分でルールを決めたのだから、守ってください、もしルールが実情に合わないなら、前項に戻って、ルール自体を変えてください、ということになる。実際の監査では、各業務プロセス~前期の例で考えれば、現金管理プロセス、固定資産管理プロセス~ごとに、肝となる統制を選び=これを「キー・コントロール」と呼ぶ、期中の全取引の中から無作為抽出でサンプルを抽出し、そこで確かに、統制が機能しているかどうかを確かめることになる。前述の例で考えれば、出納係が、現金有高を毎日数え、帳簿残高と照らし合わせてチェックマークをつける、経理責任者が毎月、帳簿と領収書を照合し、合っていたら承認印を押す、ということが考えられる。さらに、固定資産プロセスで言えば、購入資産には連番シールを貼付し、期末には固定資産台帳と現地の現物を照合し、経理課責任者がチェックマークをいれる、などが考えられる。

 こうした実際の運用を考えると、ルールはシンプルで明確なものほどベターではないか
 
 
 内部統制の良し悪しが監査の成否にも影響する

 

  内部統制は、日常業務の遂行にミスや不正が紛れ込まないためのルールであるが、それが万全かどうか、誰がどうやって確かめるのか?内部統制は、その機能のひとつに「モニタリング(監視活動)」というのがあり、内部統制は内部統制の仕組み自体の中でチェック機能を持っている構成をとっている。つまり、経理責任者とは別の人間が、経理課の日常業務がルールどおり遂行されているか、チェックをしていく必要がある。

 よく、三様監査と言う言葉か出てくるが、これは、組織内部の監査室(これは理事長なり理事会直轄で、あくまで業務上の部署として位置付けられる)、監事(今回の法改正で独立性が強化された)、および会計監査人等の外部監査、の三種類の監査がある、という意味である。監査室は設置されていない法人が多いが、これに代わるなんらかの内部監査機能(別の担当者によるモニタリング)があるか、という点である。

 ところで、今回導入が義務付けれた法定監査においては、法人側の既存の内部統制の充実度が問われます。例えば、業務の規程マニュアルがきちんと整備されていて、実際の運用面でもそれが適用されている場合、監査人は、これに則って監査手続を進めることができます。

仮に、ルールも口頭のものが大半であって、文章になっているものは実際使われていないふるい規程が残されている、現場においても、領収書などの保管や承認手続きの有無などがあいまいであれば、最悪、これでは監査できない、と言われかねないし、書類をいちいち探したり、サンプル数も必然的に多くなるので、監査日数=監査報酬も跳ね上がることになる。

 監査手続も、日常業務が適切に行われていることを前提に出来れば、充実した深度の深い監査が実施できることになる。

 

 

 
 内部統制構築のポイント
 

(1) 現行の諸規定,マニュアルの整備、点検

(1) 現行の諸規定,マニュアルの整備、点検
 

  内部統制が整備されている、ことを①文章化されていることによって裏付けられ②しかも、その文章を第三者が内容を理解して確認することが必要です。

 そのため、現行の規程、マニュアル全てを洗いだし、まず、全体の体系を整理する。

  

  定款      

 


    組織規程

      理事会運営規程

      組織図

      職務分掌規程

      ・・・・

    業務規程

      ××施設運営規程  

         ××施設〇〇部業務◎◎処理マニュアル(Ver.×)

      ・・・・

      ・・・・

       ●●処理マニュアル

 
 

        経理規程

      資金運用規程

      原価計算規定

      ・・・・

         ・・・・計算処理マニュアル

    人事規程

      正規職員就業規則

      臨時職員就業規則

      退職金規程

      給与規程

         給与計算処理マニュアル

         ・・・・

    その他

      個人情報取扱規程

      ・・・・

 

 


次に、各規程、マニュアルが現在も実際に適用されているかどうか実態との齟齬はないか、過不足がないかを確認する

 

 
(2) 現行の業務の流れをフロー図にしてみる

    

      現状の業務を業務プロセスごとに区分し、その業務プロセスごとの業務フロー図を作成する。そうすると、同じ法人内であっても、各施設ごとにやり方が違っていることがわかったり、どの段階で誰が何を確認するかが実はあいまいである点が見つかったり、さらにはその業務プロセスの中で前述の「大事な関門となっている統制=キーコントロール」も浮かび上がってきたりする。

   これを全部いちどきに作ろうとするのは無理があるので、せめて重要な業務プロセス、例えば、未収金管理プロセス、預かり金管理プロセス、決算プロセスなどは、フロー図を作ること自体が問題点の摘出把握につながっていく。

 

 
(3)過去に起きたトラブル、不正、重大ミスを反面教師とする

     法人内で過去に起きた不適正事例は、偶然の産物や個人の問題だけでなく、その組織の脆弱性と結びついて発生した可能性がある。はじめから万全の組織はない。失敗を総括教訓化することが内部統制強化につながる。そもそも、ミスをあからさまにしない内向的な体質は不正を生みやすい。現場へのヒアリングを通じ、その部署の慣行なり、組織体質のようなものも含め、弱点がないかどうか確かめていく必要がある。

 
(4) トップが先頭になった意識改革の必要性

 

     大規模な社会福祉法人、医療法人によっては、長い間の事業規模の発展展開によって、組織が拡大し、セクションごとの分立、分権が進んでしまい、統制が及ばなくなっている法人もある。そした法人こそ、内部統制を構築することで、統一ルールのもとでの組織運営が期待できる。内部統制は、単なる技術ではなく、組織風土である。組織のトップである理事長が、その事業の志を組織内実に反映させていく取組でもある。

   そして、取組の経過及び結果は、自分で判断するだけでは足りない。外部監査が義務付けれていない法人であれば、完全な第三者とはいえないまでも、監事や評議員などある程度理事者と距離のある人間の目で確かめてもらうことが必要である。そうであるならば、事長にモノ言えない監事や評議員ばかりであれば、こうした効果は期待できない。それゆえ、監事、評議員の人選や運営に公正性が要求され、できる限り客観的に理事者の組織運営を監督してもらえる体制が必要である。

   つまり、内部統制とは、「内部」と言いつつも、外から見て検証され、とかく閉鎖的との批判の強い、社会福祉法人、医療法人の外(社会)に向けて開いて行く鍵となるものである。

 

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